昭和三十年の春、ひとりの若者が京都駅に降り立った。荷物は道具箱ひとつだけだったが、胸は意欲いっぱいで溢れんばかりであった。その若者こそが、現TAJIMAの会長である岸本才治郎氏。22歳の青年であった。

兵庫県但馬地方に生まれた岸本氏は、その地で大工仕事の修行をおこなっていた。しかし、残念ながら当地にはあまり仕事がなかった。技術を磨く建築物もなかった。「京都へ行こう。歴史的な建築物が多いし、腕も磨けるぞ」そう思った岸本氏は、22歳の若さで家を飛び出したのだ。

身寄りもツテもない土地だった。あるのは但馬時代に習得した、まだ未熟な技術だけ。岸本氏は寺院建築など高度な技が必要な現場へと飛び込んでいった。

そこでは名工と呼ばれる職人たちが匠の技を駆使し、仕事に取り組んでいた。岸本氏はそこで鍛えられ、技をどんどん磨いていったのであった。そして、仕事が軌道に乗ると、故郷から仲間を呼び寄せた。但馬のメンバーたちと共に立ち上げた、その会社の名前は「但馬」。出身地を社名としたのは、京都にいても自らの基礎をつくってくれた、故郷のことを誇りに思っていたからであった。「いつかきっと、但馬の仲間を呼ぼう。自分は彼らに支えられてきたのだから」。京都で上げる、但馬という看板。社名には22歳の若者の思いが込められていたのであった。